研究事例

数学・数理科学分野と産業界・諸科学分野との連携研究事例集
研究テーマ

距離行列を木グラフで要約するための方法論と細胞生物学への応用

研究者名 早水 桃子 研究者所属 統計数理研究所 助教
キーワード グラフ理論,距離行列,最小全域木,細胞の分化,遺伝子発現データ解析,進化系統樹,主成分分析
研究内容
A:どんな諸分野・企業の、どんな問題や現象をターゲットにしたか。

近年の細胞生物学では,多様な細胞の遺伝子発現データから細胞分化の木モデルを自動構築する方法が求められている.細胞の遺伝子発現パターンの違いから細胞同士の「距離」を計算し,その距離行列を入力として最小全域木問題を解くという方法はプラクティカルには有用だが,正解が一つに決まるとは限らないし,必ず意味のある結果が得られるという保証もない.

B:どんな数学・数理科学をどのように使ったか。

ゲノム配列の違い(距離)から系統樹を構築するための理論を応用して,細胞の遺伝子発現パターンの違いから細胞分化の木モデルを構築するための理論を展開した.

C:どんな成果が得られたか。(あるいは、どんな成果を目指しているか。)

与えられた距離情報が木グラフで表せるかをチェックするための「判別式」を与え,その判別式を満たすケースでは正解の木が一つしかなく,しかも最小全域木問題を解くアルゴリズムで簡単に求められることを証明した . 「主成分分析のグラフ版」といえる方法の創出を目指して, YES/NOのチェックだけでなく,距離空間と木のフィッティングの良さをはかる定量的尺度を作ろうとしている.

D:どのようなきっかけでその諸分野・企業との連携が始まったか。

京都大学iPS細胞研究所の実験研究者から個人的に研究上の相談を受けてデータ解析を行ったことがきっかけで,科学的に信頼できるデータ解析ソフトウェアを開発するための数学的な考察が始まった.