研究事例

数学・数理科学分野と産業界・諸科学分野との連携研究事例集
研究テーマ

ウイルスの適応的な感染成立機構の解明

研究者名 中岡 慎治 研究者所属 北海道大学大学院先端生命科学研究院
キーワード ウイルス、免疫、T 細胞、細胞イメージング、個体群動態数理モデル、確率過程シミュレーション
研究内容
A:どんな諸分野・企業の、どんな問題や現象をターゲットにしたか。

ヒト T 細胞白血病ウイルス (HTLV-1) が免疫応答を逃れて慢性感染する機構の解明は HTLV-1 研究の中心課題である。HTLV-1 複製・維持に必須のタンパク質 Tax が間欠的に発現していることをイメージングにより見出し、その機構を解析 したが、なぜ間欠的な発現が観察されるかを説明するための理論的根拠が求められた。

B:どんな数学・数理科学をどのように使ったか。

実験データを定量的に説明可能な Tax タンパク質発現を表現した細胞内数理モデルと Tax 発現のアポトーシスに およぼす影響を考慮した細胞集団の数理モデルを構築し、確率シミュレーションを実施した。

C:どんな成果が得られたか。(あるいは、どんな成果を目指しているか。)

[1] Tax の間欠的発現が免疫回避とウイルス生存を最適化する戦略である可能性 と [2] Tax 発現がたとえ間欠的かつ発現期間が短くても (数十時間)、細胞集団レベルでは HTLV-1 の長期生存・維持 (年単位) に決定的であることを示唆した。 また、Tax を発現している細胞の割合が約5%以下であるにも関わらず、Tax 発現を経験するだけで、経験しない場合と 比べて体内での HTLV-1 感染細胞の生存が劇的に増加する可能性を示した。

D:どのようなきっかけでその諸分野・企業との連携が始まったか。

個体群動態数理モデルの解析と確率過程シミュレーション手法開発と応用の実績があったため、ウイルス学と数理モデル研究を行っている研究グループから誘われて、共同研究を始めることとなった。