研究事例

数学・数理科学分野と産業界・諸科学分野との連携研究事例集
研究テーマ

生命現象を検証可能な形で数理モデル化するための新しい方法論の構築とその応用

研究者名 栄 伸一郎 研究者所属 北海道大学理学研究院
キーワード 反応拡散系, パターン形成, ショウジョウバエ, 視覚中枢系, 分化の波
研究内容
A:どんな諸分野・企業の、どんな問題や現象をターゲットにしたか。

生命現象に見られる空間パターンや時間変動を, 直接実験と照合可能な形で数理モデル化すること, および理論解析を可能とするための方法論の構築を目指しています.検証にはショウジョウバエの脳における「分化の波」に特化して, 実験系の研究者と緊密な連携のもとで作業を行い, 方法の有効性を確認します.

B:どんな数学・数理科学をどのように使ったか。

一般多変数反応拡散型モデルを用いて, モデルの詳細に依らない解の普遍的性質を探りました.その解析には中心多様体縮約や分岐理論など, 様々な逓減摂動の方法を駆使して幾つかの本質的運動を抜き出しました.一方, 実験結果との照合を行うことのできる手法として, 積分核を用いた, 新しいモデル表現法を提案しました.一般多変数反応拡散型モデルと積分核による表現は, 反応拡散近似という手法により互いに密接に結びついていることも明らかになりつつあります.

C:どんな成果が得られたか。(あるいは、どんな成果を目指しているか。)

ショウジョウバエの脳において見られる「分化の波」についてのモデル方程式から予測された現象を変異体の脳を用いて再現するなど, 詳細な検証が成功しつつあります(PNAS 2016).またモデル化のための新しい手法に関しては, 多くのモデルをこの手法で記述し直すことにより, 既存の問題の殆どを含み得ることを確認中です.更に解の普遍的性質を用いることにより, 非線形項などをある程度ブラックボックスのままでも扱うことが可能となってきました.これは楕円型樟脳片の相互作用の解析に用いられ, 成果を上げました.

D:どのようなきっかけでその諸分野・企業との連携が始まったか。

生命系との共同プロジェクトや異分野融合ワークショップを通して.互いの研究を紹介し合ったことがきっかけとなりました.


楕円型樟脳片を用いた相互作用の検証実験
ショウジョウバエ脳において見られる「分化の波」
数理モデルを用いた「分化の波」のシミュレーション
実際の脳を用いた検証実験