2020年2月1日・2日に東京で開催されたCREST・さきがけ・AIMaP合同シンポジウム「数学パワーが世界を変える2020」では、CREST「数理モデリング」領域・さきがけ「数学協働」領域にて行われた、数学と諸分野の協働によって社会的課題の解決を目指す諸研究の成果が報告されました。データ科学、計算機科学、流体力学、数理モデリング、トポロジーや力学などの数学、生命科学・医学、機械学習、ロボット工学といった多岐にわたる分野において、純粋な研究としての進展のみならず、産業界や社会における問題の解決につながる成果が生み出されていることが紹介されました。
この研究集会における企画セッションの一つとしてAIMaP企画セッション「数学と異分野の協働で切り拓く新たなイノベーション」を開催し、数学・数理科学を活用して実社会における諸問題に取り組んでおられる招待講師をお招きしました。浦本直彦氏(株式会社三菱ケミカルホールディングス)による講演「人工知能技術と異分野の融合がもたらす価値の創造」では、人工知能研究の現状と課題に関する包括的なレビューが行われました。現実的な問題への効率的な応用、機械学習の結果の説明可能性、社会的・倫理的な問題などが課題となっていることが紹介され、単なるブームの域を超えて発展している人工知能技術に基づいてさらなる価値の創造と技術の進化をもたらすために、分野や立場を超えた研究・開発のエコシステムを構築すべきとの提言がなされました。それに引き続いて行われた我妻三佳氏(日本アイ・ビー・エム株式会社)による講演「数学専攻者による先進テクノロジーへのチャレンジ」では、我妻氏が名古屋大学にて担当したスタディグループにおける取り組みが紹介されました。数論の未解決問題であるコラッツ予想を解決するための量子アルゴリズム開発、データサイエンスの動向や事例紹介などを紹介するデータサイエンティスト講座について、研究成果や実施における困難さなどが報告されました。現在の日本においてイノベーションを起こす人材の発掘・開拓は喫緊の課題となっており、そのために学生と産業界との接点を提供するスタディグループのような活動を継続・活性化することでイノベーション実現の基盤を構築することが重要だと述べられました。
当研究集会では「数学者と考える新しい社会のデザイン」と題するグループワークも開催されるなど、研究者同士の分野の垣根を越えたコミュニケーションの場が実現されるとともに、今後の社会・経済・産業の発展における数学・数理科学の重要性が議論されました。研究集会全体にわたり、数学・数理科学に根ざした異分野連携を今後も促進してさらなるイノベーションにつなげていくことの重要性が再認識されました。